- 2025.6.19
「オリンピックは目指しません」――それでも白幡亜美選手が、ビーチに立ち続ける理由
「オリンピックは目指していません。」
そう口にしたときの彼女は、迷いがなかった。
2024年のパリ五輪が話題を呼び、スポーツ界全体が熱気に包まれるなか、あえて“その先”を見ている選手がいる。
彼女が目指すのは、もっと日常に根ざした、新しいアスリートのあり方だ。仕事と競技を両立する“デュアルキャリア”の道。
その先に、自分の「日本一」があると信じている。
幼い頃から、ボールとともに
ビーチバレーを始めたのは社会人になってから。
もともとは、小学生の頃からずっとバレーボールを続けてきた。大学では一度プレーから離れ、トレーナーとして裏方に回った。
だが、不思議なもので、ボールから距離を取ったからこそ、もう一度、コートに立ちたいという気持ちが強くなったという。
「自分が本当にやりたいのは、やっぱり“プレーすること”だったんです。」
22歳でビーチバレーに転向。最初は、新潟のケーブルテレビ局で働きながらの競技生活だった。
社会人としての責任と、アスリートとしての夢。その両方を背負いながら、地元の国体では好成績を収めた。
「もっと上を目指したい」
その思いが、25歳のとき、彼女を関東へと導いた。
コロナ禍、そして転機
拠点を移してから間もなく、コロナ禍がやってきた。大会の中止、練習環境の制限――競技生活は思うように進まなかった。
それでも、諦めなかった。
そんな彼女に声をかけてくれたのが、今の勤務先・ハウスコムだった。
「働きながら競技を続けること」に理解を示してくれる環境が、彼女の活動を後押しする。
昨年にはペアも変わり、国内の成績は上向きに。そして今年、ついにジャパンツアーへの出場が決まった。
国内の主要大会を転戦し、ポイントを競い合うジャパンツアー。
アスリートとしては大きなチャンスだが、彼女にとっては“通過点”にすぎない。
デュアルキャリアの道を切り拓く
彼女の目標はただ一つ――「デュアルキャリアで日本一になること」。
「アスリートは競技にすべてを捧げるもの」
そんな価値観が今も根強い中、働きながら戦い続けることを選んだ。
「私が憧れられるような存在になりたいんです。」
彼女がそう語る背景には、現役を終えた選手たちの“その後”がある。
トップで活躍していた選手たちが、スポンサーが離れた途端に生活に困窮する。
引退後にキャリアの見通しが立たず、競技を辞めるタイミングを見失う。そんな現実が、選手を取り巻いている。
「私はそうなりたくないし、若い選手たちにも『あの人みたいになりたい』って思ってもらえる存在でいたい。」
今のペアも、社会人2年目の“デュアル組”。彼女の価値観に共鳴し、ともに歩み始めている。
コートの外にも、挑戦は続く
2024年の後半からは、日本体育大学の女子ビーチバレー部のコーチとしての活動も始まる。
名門チームでありながら、長らく監督不在だったという。選手たちは主体的に練習を重ねてきたが、
「誰かに導いてほしい」と感じていたのかもしれない。そんなとき、声がかかったのが彼女だった。
選手として、社会人として、そして今、指導者として。
肩書は増えていくけれど、その根っこにある思いは変わらない。
「アスリートだからこそ、今しかできないことがある。」
将来何をしたいのかは、まだ明確には見えていない。けれど、今できることに全力を注ぐことで、
その答えはきっと、後からついてくる。
ビーチに立ち続ける理由
働きながら戦う。コーチとして育てる。ビーチバレーの魅力を、もっと広げる。
そんな姿を、今の若い世代に見せていきたいという。
“競技だけじゃない生き方”が、未来のアスリートの道を照らすかもしれない。
彼女の挑戦は、今まさに、その道を切り拓いている。
編集後記
スポーツの世界では、「すべてを懸けて挑む姿」が美徳とされることが多い。だが、それだけがアスリートの生き方ではない。
仕事と競技、生活と夢。どちらかを犠牲にするのではなく、両方を大切にしながら自分らしいスタイルで前に進む。
そんな選手がいてもいい。むしろ、これからの時代には必要な存在かもしれない。
彼女の姿勢は、勝敗やランキングを超えた価値を放っている。
「自分を犠牲にしないスポーツ人生」のモデルとして。
そして、「誰かに希望を与える生き方」として。
ビーチの上に立つその背中が、今、多くの人に語りかけている。
YouTube番組「アスリートキャリア」出演中
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